薬物依存症・性的少数派・少年非行

　ＬＡ－ワッツ
坂上　香　津田塾大　准教授、映画監督。

月刊「みすず」2011年10月号　p.38～49から抜粋。本文は　買って
読んでください。315円。1年ほど経ったら　この連載は　本になると思います。

●サイコドラマ
　この輸のなかには、もう一組、兄弟がいた。ドワイトとマイケル・
ボカージュ。ドワイトは、現在アリゾナのツーソソにあるアミティで
スタッフをつとめており、ケルピンと同じ刑務所に服役したことの
ある薬物依存者だった。最近、弟のマイケルが、別の刑務所から
出所してきたこともあり、今回のワークショップには兄弟で参加し
ていた。二組の兄弟は、同じアフリカ系で、兄弟ともに服役体験が
あり、家庭自体が暴力に溢れていたという点など、多くの共通点が
あるようだった。

ケルピンらは、アミティのプログラムを通して、家族と暴力について
繰り返し話し合う機会を持ってきたが、ドワイトら兄弟にとっては
今回が初めての体験だった。ドワイトのほうは、刑務所プログラムを
含むと十年以上アミティに関わっていることもあるのだろう、二人に
触発され、少しずつ自分の体験を語り始めた。

ケルピンやチャールズを含めた数名のメンバーが、目配せしながら
席を離れ、ドワイトとマイケルを囲む形で円形を崩し始めた。
サイコドラマが始まる。サイコドラマとは心理劇のことで、集団精神療法の
一種である。精神分析家のヤコブ・モレノがその創始者で、アミティでは
熟練したスタッフのみが、この手法を使ってきた。
その後、サイコドラマは状況判断やそのやり方が難しく、へたを
すると参加者を傷つけてしまうため、諸刃の剣であることも学んだ。
　30分程度のサイコドラマが終盤にさしかかると、それまでの
興奮状態が嘘のように、穏やかな時間が流れていく。ケルビンが
二人に感想を求める。
ケルピンの言葉は、自らの被害者性に耽溺してしまう語りでは
決してなかった。
少なくとも、数年前に刑務所で感じた頼りなさや、釈放直後の
浮ついた彼の言葉とも、語りロとも違った。幾つもの道標に導かれ、
自らの檻を打ち破ってきた者だからこその、説得力のある、
そして優しさに満ちた語りだ。
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