2011年08月04日
ライファーズ 償いと回復の道標 5
サンイシドロ
坂上 香(さかがみ かおり)津田塾大 准教授、
映画監督。
月刊「みすず」2011年7月号 p.38~49
から抜粋。本文は 買って読んでください。315円。
1年ほど経ったら この連載は 本になると思います。
★2002年12月サンディエゴにあるドノパン刑務所の一室に、
私と撮影クルーは通された。
私たちの取材対象者であるライファーズ(無期刑受刑者)の
一人の仮釈放をめぐる審議会が、予定されていた。
坂上 香(さかがみ かおり)津田塾大 准教授、
映画監督。
月刊「みすず」2011年7月号 p.38~49
から抜粋。本文は 買って読んでください。315円。
1年ほど経ったら この連載は 本になると思います。
★2002年12月サンディエゴにあるドノパン刑務所の一室に、
私と撮影クルーは通された。
私たちの取材対象者であるライファーズ(無期刑受刑者)の
一人の仮釈放をめぐる審議会が、予定されていた。
レイエスは、犯罪者の更生を目指すNPOのアミティが運営
する刑務所内TC(治療共同体、回復共同体)の一つでデモンス
トレーターを長年つとめている。彼の刑期は厳密にいうと「二
五年から無期刑」で、25年の服役後は、釈放される可能性が
残されている。
模範囚といえるレイエスでさえ、 すでに複数回却下されて
きていたが、彼は決して諦める様子がなかった。
審議会で仮釈放が一旦拒否されると、釈放の条件を満たさない
という理由から、最低一、二年は審議の対象からはずされる。
審議会に向けて慎重に準備を進めてきていることを、私は
取材のなかで知った。例えば、スタッフの援助を受けて
釈放後の就職先を確保したり、釈放を薦める推薦状を知人や
友人から30通余り取り付けたりしていた。加えて、他の
受刑者やスタッフ等と面接の練習も重ねていた。
審議は全体的に、事件直後を彷彿とさせる、公判のようだった。
レイエスが服役中に変容を遂げたか否か、それがまた、釈放
に値するかどうかを審議するのではなく、むしろ二十数年前に
犯した罪を改めて断罪しているかのように見えた。その模様を
映像で記録しながら、不思議な感覚を抱いた。いったい何のた
めにこの審議会は行われているのだろう。
カリフォルニア州サンディエゴ郡、サンイシドロ。
仮釈放審議会の数日前、私たちはメキシコ国境沿いのこの町
に暮らすレイエスの両親を訪れた。
サンディエゴ郡のなかで最も平均所得が低く、生活保護受給
世帯が多い町だ。
人口の75パーセント以上がラティーノと呼ばれる中米からの
移民で、その大半がメキシコ系だ。メキシコから移民してきた
レイエスの一家もその典型といえる。
レイエスが、未だに親や親族に打ち明けられない「秘密」。
それは、父親の友人である男性に、十歳の時、自宅でレイプ
されたことだった。自分の身に起こったことが一体何だった
のかが理解できず、彼は混乱した。この直後から急に粗暴に
なり、動物虐待を始めたのだと、彼があるグループで
話すのを聞いたことがある。
「自分だけの秘密にすれば済むんだと。
ドラッグだけが支えでした。ハイになるのが楽しみでした。
逃避する唯一の方法だったからです。ドラッグでネガティブな
感情を閉じ込めていたのです」
十歳の自分の身に起こったことが「レイプ」であったと気づいた
のは、被害から30年余り後のこと。アミティに参加してからの
ことだった。グループで他の受刑者が自らの性暴力について
語るのを初めて聞いたとき、男が性暴力の被害に遭うわけが
ないと思った。だから、長年封印し続けてきた体験が性暴力
だったと認めるまでには、数ヶ月かかっている。これはレイエ
ス特有の出来事ではない。アミティでは多くの男性が、似たよ
うな体験をしている。自らの体験や感情を受容できるようにな
るまでの時間、状況、プロセスは人によるが、驚くほど多くの
男性が、近親者に性暴力をはじめとする「秘密」を持っている
ことを、刑務所では痛感させられる。
する刑務所内TC(治療共同体、回復共同体)の一つでデモンス
トレーターを長年つとめている。彼の刑期は厳密にいうと「二
五年から無期刑」で、25年の服役後は、釈放される可能性が
残されている。
模範囚といえるレイエスでさえ、 すでに複数回却下されて
きていたが、彼は決して諦める様子がなかった。
審議会で仮釈放が一旦拒否されると、釈放の条件を満たさない
という理由から、最低一、二年は審議の対象からはずされる。
審議会に向けて慎重に準備を進めてきていることを、私は
取材のなかで知った。例えば、スタッフの援助を受けて
釈放後の就職先を確保したり、釈放を薦める推薦状を知人や
友人から30通余り取り付けたりしていた。加えて、他の
受刑者やスタッフ等と面接の練習も重ねていた。
審議は全体的に、事件直後を彷彿とさせる、公判のようだった。
レイエスが服役中に変容を遂げたか否か、それがまた、釈放
に値するかどうかを審議するのではなく、むしろ二十数年前に
犯した罪を改めて断罪しているかのように見えた。その模様を
映像で記録しながら、不思議な感覚を抱いた。いったい何のた
めにこの審議会は行われているのだろう。
カリフォルニア州サンディエゴ郡、サンイシドロ。
仮釈放審議会の数日前、私たちはメキシコ国境沿いのこの町
に暮らすレイエスの両親を訪れた。
サンディエゴ郡のなかで最も平均所得が低く、生活保護受給
世帯が多い町だ。
人口の75パーセント以上がラティーノと呼ばれる中米からの
移民で、その大半がメキシコ系だ。メキシコから移民してきた
レイエスの一家もその典型といえる。
レイエスが、未だに親や親族に打ち明けられない「秘密」。
それは、父親の友人である男性に、十歳の時、自宅でレイプ
されたことだった。自分の身に起こったことが一体何だった
のかが理解できず、彼は混乱した。この直後から急に粗暴に
なり、動物虐待を始めたのだと、彼があるグループで
話すのを聞いたことがある。
「自分だけの秘密にすれば済むんだと。
ドラッグだけが支えでした。ハイになるのが楽しみでした。
逃避する唯一の方法だったからです。ドラッグでネガティブな
感情を閉じ込めていたのです」
十歳の自分の身に起こったことが「レイプ」であったと気づいた
のは、被害から30年余り後のこと。アミティに参加してからの
ことだった。グループで他の受刑者が自らの性暴力について
語るのを初めて聞いたとき、男が性暴力の被害に遭うわけが
ないと思った。だから、長年封印し続けてきた体験が性暴力
だったと認めるまでには、数ヶ月かかっている。これはレイエ
ス特有の出来事ではない。アミティでは多くの男性が、似たよ
うな体験をしている。自らの体験や感情を受容できるようにな
るまでの時間、状況、プロセスは人によるが、驚くほど多くの
男性が、近親者に性暴力をはじめとする「秘密」を持っている
ことを、刑務所では痛感させられる。
Posted by 伝兵衛 at 17:32│Comments(0)
│薬物依存症
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