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2011年05月11日

ライファーズ(終身刑囚)償いと回復の道標2

ツーソン
坂上 香
月刊「みすず」2011年4月号 p38~50
から 抜粋。原文は買って読んでください。315円。
そのうち1年後くらいに この連載はまとめて出版される
と思います:

傷ついた者として、病む人々はケアを受けることができるだろう。
しかし、物語の語り手としては、他者をケアすることもできる。病者、
そしてすべての苦しむ者は、同時に癒す者となりうる。傷を負ってい
るということが、彼らの物語の潜在的な力の源となる。その物語を通
して、病者は自分たちとその聴き手との間に共感的な紐帯を作り出す
その紐帯は、物語が語り直されるたびに広がっていく。その時点で、
聴く者は他者に語る者となり、共有された経験の輪が広がる。物語に
は癒すカが備わっているのであるから、傷ついた癒し手と傷ついた
物語りの語り手とは別々のものではなく、同一の人物の異なる側面
なのである 
アーサー・F・フランク
(アーサー・W・フランク『傷ついた物語の語り手 身体・病い・
 倫理』鈴木智之訳、ゆみる出版、2002年、4p)

1995年9月の旅の目的地は、アリゾナ州ツーソソにある犯罪者の
更生施設「アミティ」(Amity)。あるテレピ番組の事前調査だった。

 ツーソンのこの施設は、「サークル・ツリー牧場」と呼ばれ、
三ケ月から一年半の滞在を基本とする居住型の社会復帰施設で
ある。参加者の顔ぶれはその時々で変わるが、当時は、禁固刑
の代替として送られてくる初犯の薬物依存者、病院や福祉機関
からの紹介で送られてくる人、仮釈放中の人等が多かった。

アミティとの出会いを取り持ってくれたのは、世界的に著名
な元精神分析医のアリス・ミラーだった。
 ミラーは、「暴力の世代間連鎖」という問題に着目し、1970
年代から数々の著作を通して世界に警告を発してきた思想家で
ある。彼女の考え方はこうだ。子ども時代に受けた深刻な
トラウマを放置したままでいると、成人後の暴力傾向につなが
り、それが世代を超えて脈々と受け継がれてしまう。ここで
いう暴力とは、他害はもちろんのこと、自傷行為や薬物依存等、
自分に向くものも含まれる。その暴力の悪循環を断ち切るため
には、子ども時代の記憶に立ち戻り、受け止める必要がある。
 私は、1990年代初頭、本屋で彼女の著作『魂の殺人 親は
子どもに何をしたか』(新曜社、1983)を手にして、衝撃
を受けた。大量虐殺を行ったヒトラーや残虐な殺人を犯した
死刑囚等、実在する人物の事例を通して、彼らがいかなる環境下
で育ち、いかにしてそのような価値観に至ったのかが明解に分
析されていたからである。

砂漠地帯の中にある、犯罪者の更生施設アミティ。
十人程のスタッフが、私と案内役のスコッティを取り囲んで
立っていた。その中には、代表者のナヤ・アービターも含まれ
ていた。
 十代半ばでヘロイン依存になり、刑務所に復数回服役した。
その頃は他者に対する共感が全くわかなかった。その背景には
実父による性的虐待、DV、母親と継父による精神的虐待等が
あった。18歳の時に、様々な問題を抱える人々が互いに作用し
あって問題行動からの回復を促すTC(Therapeutic Community=
治療共同体、回復共同体)につながって、薬物を断った。そこで
人間的に成長する機会に恵まれ、初めて他者に対する関心が
わくようになった。十年後、そこを離れてアミティを創設したこ
と等を、ナヤは矢継ぎ早に語った。

驚かされたのは、一人せいぜい2~3分という短い時間で語る
ことだ。彼女たちの口から出てくる凄まじい体験、それとは
対照的な落ち着いた語り口や雰囲気。そのギャップに私は
圧倒されていた。
 その場にいたスタッフは、一人を除く全員が元受刑者で、
かつて深刻な問題を抱えていた当事者だった。

(TCは治療共同体や回復共同体と訳されている。ある考え方
や手法を使って、同種の問題もしくは症状を抱える人たちの回
復を援助する場のことで、多くの場合、同じ問題や症状を共有する
人々が語り合うことを通して互いに援助しあう、自助グループのスタ
イルをとる)

 アミティが活動を開始したのは今から30年前の1981年。
米国の司法政策における厳罰化は1970年代のニクソン政権
からすでに始まっていたが、アミティの誕生は、レーガン政権
に移行し、その傾向が激化し始めた時期と重なる。刑務所人ロ
が急増し始めたのも80年代初期だった。

アミティと 他の施設との大きな違いは、単に問題行動を
止めるということではなく、人間的な成長を目指すところにある
といえる。そこに欠かせないのが、人とのつながりだ。大半の
レジデントたちは、ここにたどり着くまでの間に他者を傷つけ
ているが、それ以前に自らが深く傷つき、人間不信に陥ってい
る。家族や親族との関係はとっくの昔に断たれ、友人や知人と
呼べる人もほとんどいない。たとえ いたとしても、利益のため
に利用しあうような関係だ。他者以前に自分への関心が薄く、
総じて人生に投げやりだ。アミティでは、そんなレジデントた
ちが、自分や他者に関心を持てるように促すところから始める。

 アミティの思想や活動は、創設者の一人であるナヤの体験と
発想に拠るところが大きい。彼女自身、かつて服役中の隣の房
で、受刑者が死にかけていても気にならないほど、無関心の
境地にいた。無間心から他者への共感というアミティのモットー
は、まさにナヤ自身の旅路そのものだった。

ミラーと同様、多くの問題行動の背景には、放置されてきた
子ども時代の被害体験が大きく影響しているとナヤは考える。
子ども時代に愛情を十分に受けることができず、万人の人間と
して当たり前に生きる権利を奪われてきた人々に共通して
みられる「症状」を、ナヤは「子ども時代を剥奪された者の
文化」と名付けた。
 〈子ども時代を剥奪された者の文化〉に身を置く人々は、
売春や薬物依存に見られるような〈自分に向けた暴力〉か、
または傷害やレイプといった〈他者への暴力〉といった〈症
状〉を見せます。これは、国境を越え、共通して見られる
〈症状〉ですが、彼らは、主流の精神医学や心理学的な治療
のパラダイムでは、理解も説明も不可能な体験をしてきた
人々なのです。実際に体験してきたことであっても、医者や
専門家と呼ばれる人々にくまさか〉,〈そんなことありえな
い〉と思われ、信じてもらえないことが多々あります。

アメリカは、そんな彼らを心理的に拒絶してきました。そして、
問題から目を背けるために、彼らを刑務所に閉じ込めてしま
ったわけです。
(坂上香「被害と加害の連鎖を断ち切るために 治療共同体
『アミ ティ』の試みから」藤森和美編『被害者のトラウマと
その支援』誠信書房、2001年、129p)

  その彼女がシナノンという先駆的なTCの存在を知ったのは、
刑務所に移送される前の拘置所でのこと。独房に入れられてい
た彼女は、雑誌『LIFE』の特集記事に釘付けになった。カ
リフオルニアのサンタモニカにある施設で千人を超える薬物依
存者が共に暮らし、依存症からの回復を求めて助け合っている
様子が写真と共に紹介されていたのである。

 それからおよそ十年、ナヤはシナノンに身を置くことになる。
そこでは、薬物を始めとするあらゆる問題の「当事者」、心理
学者や犯罪学者といった専門家、音楽家やアーチスト等、様々
な人々と出会い、語り合った。



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Posted by 伝兵衛 at 14:58│Comments(0)薬物依存症
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