2008年01月12日
加害者(少年A)の社会復帰進める8つの提言/井垣康弘
君たちのために
産経新聞2008年1月9日 夕刊
手元に、平成10年6月に開催された山口繁・最高裁判所長官
と神戸地家簡裁裁判官全員の 「懇談会」のメモがある。懐か
しい。家裁で少年事件を扱っていた私の持ち時間は5分だっ
た。私は1000字程度のメモを作り、山口長官に差し上げる
とともに、それを席上で読み上げた。
神戸の少年Aに対する医療少年院送致の審判をしてから8カ
月しかたっておらず、後で知ったことだが、少年Aは「国が死
刑にしてくれないのなら、自殺する自由を与えよ」とゴネて鬱
になっていた時期だ(もっとも6年後、少年Aは世論の殺せの
大合唱を背にしながら、生きろと言い続けてくれた教官たちを
心から尊敬すると言ってくれた)。
私の発言は、通り魔的犯罪で子どもが殺された遺族に対する
裁判所や社会のあるべき対応について論じている(もちろん少
年Aのケースを念頭に置いているし、聞いている側もそうであ
ったろうが、一応は一般論である)。
その様な場合の、被害者遺族(一部の遺族と思われるが)の
ニーズとして、次の8つを想定し、それらのニーズに最大限応
じるべきだとして、法的手当て・(法改正)や運用の工夫を
提言した。
①わが子がなぜ狙われたのかを含め、被害を受けた
わが子の対応や言動などを知りたい。
②加害少年の生育歴、家庭環境、非行に至る背景、
非行の原因・動機などを詳しく知りたい。
③殺されたわが子のこと、親の気持ちなどを、少年
やその親に十分語りたい。
④以上について、審判の前後に家庭裁判所の裁判官・
調査官とじっくり面談したいし、審判にも全面的に
参加したい。
⑤被害に遭った直後から、弁護士・医師・カウン
セラー・ソーシャルワーカー・その他のボランティア
の支援を望む。’
⑥少なくとも交通事故死の場合に劣らない補償金
の給付を望む。
⑦少年院における処遇の内容と進展を定期的に
知りたい。
⑧少年(および保護者)といつでも連絡が取れる
介添え役の存在を望む。
最高裁長官にこのような提言をした理由は、少年Aの事件を
担当して「そんな悪魔はさっさと殺してしまえ!」という世間
の悪意に弱っていたからである。保護処分は、少年を育て直
して社会適応力を与え、なるべく連やかに社会復帰させること
を目標としている。
しかし、社会が「その少年は生きる資格なし」と決め付けて
いる場合、社会復帰した少年は、日々その空気を吸いながら
生活することになる。現実には、その社会で元気に生き抜く
ことは無理である。海外へ逃亡させないかぎり、自殺か再犯
か、何らかの事件が起こるだろう。それを防ぐには、被害者遺
族のニーズに全力で応える必要があると思ったのである。
(弁護士)
産経新聞2008年1月9日 夕刊
手元に、平成10年6月に開催された山口繁・最高裁判所長官
と神戸地家簡裁裁判官全員の 「懇談会」のメモがある。懐か
しい。家裁で少年事件を扱っていた私の持ち時間は5分だっ
た。私は1000字程度のメモを作り、山口長官に差し上げる
とともに、それを席上で読み上げた。
神戸の少年Aに対する医療少年院送致の審判をしてから8カ
月しかたっておらず、後で知ったことだが、少年Aは「国が死
刑にしてくれないのなら、自殺する自由を与えよ」とゴネて鬱
になっていた時期だ(もっとも6年後、少年Aは世論の殺せの
大合唱を背にしながら、生きろと言い続けてくれた教官たちを
心から尊敬すると言ってくれた)。
私の発言は、通り魔的犯罪で子どもが殺された遺族に対する
裁判所や社会のあるべき対応について論じている(もちろん少
年Aのケースを念頭に置いているし、聞いている側もそうであ
ったろうが、一応は一般論である)。
その様な場合の、被害者遺族(一部の遺族と思われるが)の
ニーズとして、次の8つを想定し、それらのニーズに最大限応
じるべきだとして、法的手当て・(法改正)や運用の工夫を
提言した。
①わが子がなぜ狙われたのかを含め、被害を受けた
わが子の対応や言動などを知りたい。
②加害少年の生育歴、家庭環境、非行に至る背景、
非行の原因・動機などを詳しく知りたい。
③殺されたわが子のこと、親の気持ちなどを、少年
やその親に十分語りたい。
④以上について、審判の前後に家庭裁判所の裁判官・
調査官とじっくり面談したいし、審判にも全面的に
参加したい。
⑤被害に遭った直後から、弁護士・医師・カウン
セラー・ソーシャルワーカー・その他のボランティア
の支援を望む。’
⑥少なくとも交通事故死の場合に劣らない補償金
の給付を望む。
⑦少年院における処遇の内容と進展を定期的に
知りたい。
⑧少年(および保護者)といつでも連絡が取れる
介添え役の存在を望む。
最高裁長官にこのような提言をした理由は、少年Aの事件を
担当して「そんな悪魔はさっさと殺してしまえ!」という世間
の悪意に弱っていたからである。保護処分は、少年を育て直
して社会適応力を与え、なるべく連やかに社会復帰させること
を目標としている。
しかし、社会が「その少年は生きる資格なし」と決め付けて
いる場合、社会復帰した少年は、日々その空気を吸いながら
生活することになる。現実には、その社会で元気に生き抜く
ことは無理である。海外へ逃亡させないかぎり、自殺か再犯
か、何らかの事件が起こるだろう。それを防ぐには、被害者遺
族のニーズに全力で応える必要があると思ったのである。
(弁護士)
Posted by 伝兵衛 at
19:51
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